恋文

 この気持ちを伝える術もないわね……
 彼女はひとこと、溜め息交じりにそれだけ言って電話を切った。僕はこの時ほど何かを恨んだことは無かった。
 何かを恨んだことで何がどうなるかという厄介な質問はしないで欲しい。否、答えが見え透いているので訊かないでほしい。どうにもならないんだから。
 夕暮れの街から、人々の息づいた喧騒が届く。静かだと思うと五月蝿く、五月蝿いと思うと静か。そんな中途半端な雑音だけが、彼女との電話を切った後の僕の聴覚を支配した。本当はもっと話したかった。僕の声を忘れないで欲しくて、つい電話を終わらせるのを延ばしに延ばしてしまう。その甲斐あってか、最近は「俺」というだけで通じる。
 彼女と付き合い始めて早くも1年が過ぎようとしていた。僕は学校が忙しくて彼女と会う時間すら作れなかった。しかしこれはうわべの口実だった。本当は会いたくて仕方ない。時間だって余っている。けれど会ってしまったら、最近めっきりきれいになった彼女を目の前にして、手を出さない保証などない。「手を出す」のは付き合っていれば当然のことかもしれない。けれどその後はどうなる?
 最近は良いアイテムだってあるじゃないか。そう意気込んで会ったは良いが、いざとなるとやっぱりすくんでしまったこともあった。それ以来、何かが怖くて彼女に会えなかった。
 結局は僕が何かに対して臆病になっているだけ。その「何か」が何であるかも検討はついている。
 それを彼女に指摘されて沈黙していたのだ。どうしてその話題になったのかも忘れた。ただ当てられてしまって、驚いて情けなくて、言葉に詰まっていると、彼女は電話を一方的に切ってしまった。
 電話を切られてから数十分くらい経っただろうか。再び僕の携帯電話が鳴った。僕は出ようとしなかった。随分長い間鳴り続け、諦めたようにまた沈黙が訪れた。次に1度だけ電話が鳴った。鬱陶しいと思いながら携帯画面を覗いた。メールだった。
 瞬間、僕はショルダーバッグを引っ掴んで家を飛び出した。自転車を乗り捨てるように駆け込んだ場所は、病院だった。受付けの看護婦に病室を訊き、走らないでください、という声を受け流して部屋へ向かい、病室のドアを開き、入った。
 名前を呼んでも彼女からの返事は……無かった。
 医者が入ってきて、僕の名前を確認してから四角い紙を渡した。手紙だった。彼女から、僕に宛てて書かれたものだった。それを開いた手で、僕はまだあたたかい彼女の身体を抱き締めた。そうせずには居られなかった。
 何故こうしてやらなかったのだろう。彼女もそれを望んでいたはずなのに。彼女に拒絶されることが怖いなんて、何故そんなあり得ないことで彼女を拒絶してしまったのだろう。
 春の風が僕の手から彼女の最期の言葉を奪ったことも気付かず、冷たくなっていく彼女を抱き締め続けた。

『愛してる』
彼女の癖のある字でそう書かれた最初で最後の手紙は、病室内を哀しく舞っていた。

あとがき
 これは…パクリか? と訊かれれば、即答でうなずかざるを得ない作品です(いろんな意味で。汗)
 やっぱりもっと枚数というか、文の量というか、あったほうが文にゆとりが出るよね〜。また書き直そうかな。
 てか、タイトルがあれしか思い浮かばないって結構ヤバイ?
 ふふ…眠いので頭の回転鈍りまくってるんだろうなぁ…。
 んと、ここまでお読みいただき有難う御座いました♪
 次回も頑張りますので出来るだけ見捨てないでおくんなまし〜〜〜(汗)

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