みじかい誓い

 今まで辿ってきたものは一体何だったんだろう。
 少年は、街の交差点を渡り終えた時に考えた。
 別に誰かに裏切られたわけでもないし、裏切ったわけでもない。今までの自分を取り巻く、小さくもあたたかい世界が、壊れたわけでも、壊したわけでも、壊されたわけでもない。
 隣を向けば可愛い彼女がいる。手を繋いで夕暮れの街を散歩するように下校している。いつものように。
 そんないつものありふれた帰り道に、拾ってはいけない落し物を拾ってしまったような感覚でその疑問は浮かんできた。だからと言って急に足を止めると、彼女を引っ張って驚かせてしまうから、と少年は何とか歩みを進めた。
 きっと家に着いて別れるのが名残惜しいという気持ちの表れだと理解したのだろう。彼女は少し歩みが鈍くなった少年に合わせて、何も言わずに先程より速度を落としている。
 人生やら何やらを難しく考えることは出来ないが、その疑問は明らかに少年の生きてきた道を問いただしている。そして、今の世界が崩れる予兆にすら感じる。答えはない。
 いつの間にか彼女の家に到着し、またねと別れを告げて少年は自宅へ向かった。
 答えが浮かばない。今まで辿ってきたものが何かなんて、知らない。僕は僕のしたいことをしてきたんだし、これからもそうだ。だから知らない。知りたくもない。
 教会にでも出向いてみれば、きっとそれは神の示した道ですとでも言われるのだろうが、少年は神様がいるなんて信じていない。信じたらキリがない。自分の弱さまで神様のせいにしてしまう。
 彼女の家から数十秒歩いた時、後ろから呼び止められた。振り向くと、鞄を持たずに駆けて来る彼女がいた。服装は先程のままだった。彼女は息を切らせていることも構わずに少年に抱きついた。
 今までこんな光景は無かった。少年が告白し、少年が駆け寄り、少年が手を差し出した。彼女はずっと応えるだけだったのだ。
 困惑する少年に、彼女はキスをした。少年は反射的に彼女を抱き締めた。今までの小さくて暖かくて居心地のいい世界は、少年の中で音を立てて崩れ去った。そして新たに世界が出来た。彼女しか居ない世界。彼女さえ居ればいい世界。
 その喜びをかみしめながらも彼女を抱き締めたまま、少年は少女に尋ねた。急にどうしたのかと。少女は少年の背に腕を回してこう答えた。あの交差点を渡り終わった時に、少年への気持ちを今まで表さなかったのは何故か、ふと疑問に思った。けれどそれは本当に好きだから、表せなかった。口にしてしまうと安っぽくて何処にでもありそうなものになってしまう気がしたし、だからといって黙っていて良いのかと考えながら歩いていた。自宅に着いて、少年の後ろ姿を見たとき、いつも追って来てくれることを思い出し、同じようにすればいいと思ったと。
 少年は彼女にありがとう、と言った。今まで辿ってきたものが何であるのか。この時のための道しるべだったという答えが隙間無く当てはまった。
 答えを導いてくれた彼女の手を取って、新しい世界の中で少年は言った。

「この世界の誰よりも好きだよ」

あとがき
 この話のモチーフが解る人居たらすごいかも。
 これが書き上がった時にいちばんに考えたことです。とある曲なんですが、僕の好きな曲ベスト10にランクインしてます。まあ、嫌いな曲を聴きながら、話なんて到底考えられませんけど(苦笑)
 でも各部ちょろちょろっとキーワードが出てきてるので、音楽好きでポップスに詳しい人なら即解るかもしれません(笑)
 やっぱり聴きながら作るともろに影響を受けますね。今回はそういう話を書きたかったので別に影響受けても差し障りはないんですけど(笑)
 ではでは、此処までお読み頂き有難う御座いました♪感想などなど、お待ちしてます。
 次回も全力投球しますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。

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