霧 後 晴

 周りは深い霧だった。
 いつか抜け出そうともがいていた日々が懐かしい。青年は霧の中に佇み、先の見えないこの霧の中に迷い込んだ時を思い出していた。
 気付くと、自分以外何も感じ取れない、自分の姿さえ見失いそうな、深い霧が自分の周りにあった。何も見えない孤独や、誰ひとりとしていない淋しさが自分に襲い掛かり、今までの世界は音を立てて崩れていったように感じた。何もない。自分以外誰も居ない。心の中に焦りが生まれる。
 霧は濃くも薄くもならず、少しずつ流れ、それは時の流れを感じさせた。
 青年はこの霧から抜け出し、再び青空を仰ぐことをもう諦めてしまった。霧が発生した原因が解らないのだ。まるでそこだけ記憶が抜き取られてしまったかのように。
 原因が思い当たらない以上どんなにもがいても無駄だと気付いたのは、ここに迷い込んでから短時間しか経っていなかった。
 青年は青い空を心に思い浮かべ、目を閉じた。けれどその青空にも、しだいに雲がかかり始めた。今までなら、想像のときは雲が出てくることなんてなかった。青年は驚いて目を開け、霧に埋もれた空を見上げた。
 その時かすかに、けれど確かに青年の耳に届いたのは、少し高めの女性の、しかも青年にとっては聞き慣れた声だった。たった一言、ごめんね、と。
 青年は無言で空を見上げ続けた。
 どうして気付かなかったのだろう。どうして立ち向かわなかったのだろう。どうしてあの時、逃げたのだろう。青年の心に、後悔の念が渦巻いた。
 痛い。
 後悔の念は心にあった傷口を開いた。血が流れていく。痛い。止血もできない。
 痛さのあまり地面に膝を落とし、胸を押さえつけた。そんな青年の目の前に、先ほどの声の持ち主が姿を見せた。気配を感じて青年が見上げ、その目は驚きで見開かれた。
 何故・・・君がここに居る? 驚いたままそう尋ねると、女性は哀しそうに微笑って答えた。この霧を作り出した原因は私だから。
 青年はハッとした。原因を自分で封じてしまったことに。この女性が最愛の恋人であり、もうすでにこの世界の何処を探しても居ない事を認めたくなくて、自ら記憶を封じ、それと共に霧が立ち込め始めたのだ。
 女性は私たちの時間を忘れないで、と青年に云い、くちづけをして姿を消した。
 同時に霧がいっせいに晴れた。青年の頭上には、どこまでも青く澄んだ空が広がった。青年は涙が溢れてくることも構わず空を見上げ、姿の消えた女性に言った。もう二度と忘れるものか、と。

あとがき
 なんだか内容が悲壮ですが、一応ハッピーエンドになったはずです。(爆)一応ね。
 恋人でなくても、大切な人が居なくなったらひとはどういう行動に出るのだろう? と考えたのがきっかけでPCに向かいました。
 結局自爆してた青年も哀れですが、死因も設定されずに殺された彼女はもっと哀れ。(爆)だって設定考えてると色々面倒くさくて。(逝け)
 とりあえず字数とか勿体無いのでカギカッコは省きました。読みにくいかなぁ? でも直すと字数どころか行数がオーバーしてしまうのです(汗)そんなわけで勘弁してください。
 ではでは、此処までお読み頂き有難う御座いました。
 ネタが尽きるまで頑張りますので、次回も楽しみにしていただければ幸いです。
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