蜃気楼
歩道橋の半ば、傘も差さずにたたずむ少女を見かけたのは、静かに雨の降る夏の夕暮れだった。
その少女は無表情で、ただ橋の下を流れる車の河を見ていた。数時間はそこに居たのだろう。雨に打たれた細い身体は寒そうに白くなり、身に付けている白いワンピースの裾や漆黒の髪からは含みきれない水分がコンクリートに滴り落ちている。
雨は激しくもならず、弱くもならず、少女を濡らし続けた。少女は微動だにしない。まるで置物のようだった。
たまらず少年は傘の中に少女が入る位置に立って声をかけた。
「大丈夫?」
少女はゆっくり振り向き、無表情のまま言った。
「なにが?」
少年は何も言わず、その場に立ち尽くした。その様子を見かねた少女は、無言で去っていった。
翌日の夕暮れ、同じ場所に足を運んだ少年は、昨日と同じ風景を見た。
「こんにちは」
思い切って声をかけた。
「……昨日の」
うなずく。
「何してるの? 誰か待ってるの?」
「……大切な人を」
「一緒に待っていい?」
「どうして」
「待ちたいんだ。君がずぶ濡れになってまで待つ人を見たい」
「…………わ」
少女の言葉は車のクラクションでかき消された。もう一度訊こうかと思ったが、何故か訊くことをためらい、そのまま沈黙した。
数日間少年はそこに足を運んだ。夏休みなので少年の両親は何も咎めなかった。そしてその日、帰宅しようとして少女に言った。
「帰るね」
いつもなら、少女は何も言わずにうなずくだけだった。しかし少女は振り向いて言った。
「いつも来てくれてありがとう。さようなら」
今まで見たこともない笑顔に少年は驚いた。少年もさようならと言い、その場を去った。
その翌日から、少女は消えた。
少年は少女の消えた空間をぼんやりと眺め、やがて立ち去った。
あとがき
今回は訳解らんですねぇ(いつもだろ)一応「夏の夕暮れ」をテーマに書いてみたんですが。やっぱり前回のお話とは無関係です。
「訳解らん作品集」にタイトル変えたほうがええんとちゃいまっか〜、というツッコミはしないでください(笑)
んでもって感想・苦情・意見・誤字脱字の指摘(やっぱり不安。笑)などありましたらどしどしください。
では、此処まで読んで頂いて有難う御座いました。
次回を楽しみにしていただければ嬉しい限りです♪